SCC Day3|「未来の数字」をつくる ― 戦略的アカウンティングから事業を考える
2026年9月6日(日)、スタートアップ創出シティカレッジ(SCC)Day3で、「戦略的アカウンティング」をテーマに講義をしました。
アカウンティングというと、決算書や簿記、税務など、過去の出来事を数字として記録するものをイメージする方が多いと思います。
私自身、会計事務所で35年間、中小企業の決算・税務申告・経営相談・事業再生などに携わり、長い間「過去の数字」を扱ってきました。
しかし、これから起業する人や新しい事業をつくる人に必要なのは、これから起きる未来を数字で考える力です。
そこでSCCでは、一般的な会計や財務の講義とは少し違うアプローチを取り入れています。それが、スタートアップ・メソッドとアカウンティングを結合した「戦略的アカウンティング」です。
原体験から顧客を定義し、市場規模を考え、トラクションチャネルを選び、その仮説を最終的に売上・コスト・利益・キャッシュフローへとつなぎます。
これは、私自身が35年間の会計実務と、その後の起業・新規事業支援の経験をもとに組み合わせた独自の手法です。簿記や決算書の読み方を学ぶのではなく、まだ存在しないビジネスを「言葉」から「数字」へ変えていく。
こうしたスタートアップ・メソッドを取り入れたアカウンティングは、一般的な起業講座や会計講座ではほとんど扱われていません。
その理由の一つは、スタートアップの事業創出と会計実務の両方を経験し、それを一つの方法論として教えられる人がほとんどいないからだと思います。
私自身の会計実務と起業・新規事業支援の経験から組み立ててきたユニークな学びです。
過去の会計から「未来の会計」へ
財務会計が扱うのは、すべて「すでに起きたことの記録」です。
一方、戦略的アカウンティングが扱うのは、まだ存在しない顧客数、販売価格、購入率、市場規模、顧客獲得コストなど、これから起きる未来についての数字です。
そこに正解はありません。あるのは「仮説」です。
そして仮説である以上、間違っていれば修正する。事業そのものを見直す必要があれば、ピボット(方向転換)すればいい。
講義では、財務会計は「起きたことの記録」
戦略的アカウンティングは「まだ起きていないことの設計」と説明しました。
起業に必要なのは、精緻な数字を最初からつくることではありません。
「なぜ、この数字になると考えたのか」を説明できること。
こちらの方が重要だと私は考えています。
ビジネスの「想い」を「言葉」に、「言葉」を「数字」に変える
今回の講義の大きなテーマは、プロダクト構想からビジネスモデルを構想し、それを会計データに落とし込むことです。
そのために、
① 原体験から何を解決したいのかを考える。
② 誰が顧客なのかを具体的に定義する。
③ その顧客が市場に何人いるのかを考える。
④ その顧客にどうやって届けるのかを考える。
⑤ 顧客を獲得するためのコストを調べる。
⑥ 最後に、売上・原価・人件費・利益へとつなげていく。
この流れで事業を考えていきます。
このスタートアップ・メソッドは、スタートアップを目指す人だけのものではありません。
小さく始める事業であっても、
「誰の、どんな困りごとを解決するのか」
「その人は世の中に何人いるのか」
「その人にどう届け、いくらかかるのか」
という問いは同じです。
事業の規模が違っても、考えるべきことは変わりません。
市場規模から、1期目のP/Lをつくる
講義では、SCC第1期生が取り組んできた「介護用ズボン」の事例を使いながら、市場規模を数字に変える方法を紹介し、パラメータ係数という考え方にも触れました。
ターゲットを単に「高齢者」とするのではなく、より具体的に定義し、既存データと仮説を組み合わせて対象者数を推計します。
そこから市場最大売上規模を算定し、
市場規模 × 獲得したいシェア率 = 売上高
へとつなげます。
さらに、
売上高
- 売上原価
= 売上総利益
- 人件費
- 顧客獲得チャネルなどのコスト
= 営業利益
という形で、P/L(損益計算書)まで考え、さらにキャッシュフローへとつなげていきます。
ここで重要なのは、例えば「シェア3%」という数字そのものではありません。
なぜ3%なのか。その根拠を説明できるかどうかです。
金融機関や投資家に説明するためだけではありません。
経営者自身が、「この事業をどうやって実現するのか」を考えるための数字だからです。
顧客に届かなければ、ビジネスにはならない
良い商品をつくれば売れるわけではありません。
どれだけ良い商品やサービスであっても、顧客に届かなければビジネスにはなりません。
そこで後半では、「トラクションチャネル」、つまり顧客を獲得するための方法についても取り上げました。
SNS、SEO、ブログ、メールマーケティング、営業、業務提携、イベント、コミュニティなど、顧客に到達する方法はいくつもあります。
重要なのは、
自分たちの顧客に最適なチャネルを選び、
何人に届くのか。
そのうち、どのくらいの割合で顧客になるのか。
そのために、いくらかかるのか。
ここまで深く考えることです。
今回は受講生にも、自分の事業に適していると思うトラクションチャネルを3つ選び、それぞれにどのくらいのコストがかかるのかをリサーチするよう伝えました。
最後は、リーンキャンバスの「言葉」を「数字」に翻訳する
SCCでは、事業構想を整理するためにリーンキャンバスを活用します。
ただ、リーンキャンバスを書いただけでは事業は動きません。
「収益の流れ」から売上高を考える。
「コスト構造」から原価、人件費、顧客獲得コストを考える。
「主要指標」からパラメータ係数や成約率(CVR)を考える。
つまり、
リーンキャンバスの「言葉」を「数字」に翻訳する。
これが、今回伝えたかった「戦略的アカウンティング」の核心です。
数字は「答え」ではなく、次の行動を教えてくれるヒントです。
今回、受講生には自分の事業の1期目のP/Lを考えてもらいました。
もちろん、すべての数字を埋める必要はありません。
むしろ、
空欄の数字こそ、これから顧客に聞き、調べ、検証すべきことです。
自分で決めた数字は、すべて仮説です。机上だけで事業は完成しません。
仮説を立て、数字にする。そして、顧客に聞く。
違っていれば修正し、もう一度数字にする。
この繰り返しで、ぼんやりとしていた事業構想が、少しずつ現実のビジネスへと変わっていきます。
SCCでは最終発表までに、全員が自分の事業の収支計画書を作成します。
しかし、目的は「単に計画書をつくること」ではありません。
自分の事業を、自信を持って、自分の言葉と自分の数字で説明できる起業家になること。
「想い」を「言葉」に変え、「言葉」を「数字」に変える。
そして、その数字を顧客に確かめながら、何度も事業を改善する。
それが、私がSCCで伝えている「戦略的アカウンティング」です。SCC Day3は、受講生一人ひとりが、自分の事業の「未来の数字」をつくり始める一日となりました。
