35年そして+8年、会計人から起業家を守る人へ
2018年8月31日、私は35年間勤めた会計事務所を退職しました。
そして同年10月10日、バリュー・クリエイション株式会社を設立しました。
10月10日という日は、私にとって忘れることのない創業日です。
あれから、もうすぐ8年になります。
振り返ってみると、この8年間で得たものは、会社の売上や実績だけではありません。
HBMS(県立広島大学大学院経営管理研究科)を修了し、MBAを取得したことも大きな財産です。
しかし、それ以上に大きかったのは、自分自身が経営者となり、さまざまな起業家や経営者と向き合う中で得た「体験」だったように思います。
35年間、経営者を数字から見てきた
独立するまでの35年間、私は会計事務所で仕事をしてきました。
決算書を読み、企業の数字を見て、経営者と話をする。
利益は出ているのか。
資金繰りは大丈夫なのか。
どこに問題があるのか。
これから何を改善すべきなのか。
長い間、数字を通して企業経営を見続けてきました。この経験は、今の私の土台になっています。
財務諸表を見ると、その会社の状態がわかります。
数字の変化から、会社の中で何が起きているのかを想像します。
経営者との会話の中から、数字には表れない課題を感じ取る。
35年間で培ったこうした感覚は、今でも経営支援をするうえで大きな武器です。
ただ、独立してから気づいたことがあります。
経営を外から見ることと、自分自身が経営者になることは、まったく違う。ということです。
「経営を知っている人」から「経営する人」へ
2018年10月10日、私は自分の会社をStartUP(始動)しました。
それまで多くの経営者を支援してきましたが、その日から自分自身が経営者になりました。
仕事を取らなければ売上はありません。
商品やサービスも、自分で考えなければなりません。
値付けするのも自分です。
誰と仕事をするのか。
何にお金を使うのか。
どこへ向かうのか。
すべて自分で決めなければなりません。
もちろん、決断した結果も自分で引き受けます。
それまで何度も経営者にアドバイスをしてきましたが、自分が経営者になって初めて、その判断の重さがわかりました。
「正しい答え」がわかっていても、決断できないことがあります。
数字だけでは判断できないこともあります。
家族、仲間、顧客、将来への不安。
経営者は、さまざまなものを背負いながら決断しています。
この8年間で、私はそれを自分自身の経験として理解するようになりました。
MBAで、経験に理論が加わった
独立後、県立広島大学HBMSで経営を学び、MBAを取得しました。
35年間の実務経験に、経営戦略、マーケティング、組織、新規事業、ファイナンスなどの理論が加わりました。これは非常に大きな経験でした。
それまで経験則として理解していたことが、経営学という体系の中で整理されていく。
逆に、経営理論を学びながら、
「これは、あの時起きていたことだ」「この経営者の判断は、こういう意味だったのか」と、過去の経験がつながっていくこともありました。
実務と理論が結びついたことで、企業を見る視点は大きく広がりました。
しかし、それでもまだ足りません。経営を学ぶことと、事業を生み出すことも、また違うからです。
起業家と向き合うようになった
バリュー・クリエイションを設立してから、私は起業支援や新規事業支援に深く関わるようになりました。
特に大きな転機となったのが、三原市が主催する起業家育成プログラム「スタートアップ創出シティカレッジ(SCC)」です。
SCCでは、単に起業について講義をするだけではありません。
まだ形になっていないアイデアからスタートし、
原体験を掘り下げる。強みを考える。顧客は誰なのかを考える。
その顧客が抱えている課題を考える。提供する価値を考える。ビジネスモデルをつくる。
さらに収支を考える。事業計画をつくる。そして最後には、自分の言葉で事業を語る。
その過程を、何か月にもわたって伴走します。
現在、SCCは第6期を迎えています。過去5年間では45人が受講し、そのうち19人が起業、または企業内で新規事業を立ち上げました。数字だけを見れば「19人」です。約42%の割合です。
しかし、一人ひとりには、それぞれの人生があります。
会社員を辞める人。今の仕事を続けながら挑戦する人。家族と相談しながら一歩踏み出す人。
自信を失いそうになる人。何度も事業計画を書き直す人。
そして、最後に自分の事業を自分の言葉で語れるようになる人。こうした姿を何年も見続けてきました。
そこでわかったことがあります。
起業家に必要なのは、「正解」だけではない
起業支援を始めた頃は、良い事業計画をつくることが重要だと考えていました。もちろん、それは今でも重要です。
市場を調べる。競合を見る。顧客課題を考える。収支をつくる。資金を手当する。どれも必要なことです。
しかし、実際に起業家と長期間向き合っていると、それだけでは人は動かないことがわかります。
最後に決断するのは本人だからです。やるのか。やらないのか。
会社を辞めるのか。もう少し続けるのか。この事業で行くのか。方向転換するのか。
このような場面で、コンサルタントが代わりに決断することはできません。
だから私は次第に、「答えを教える」よりも「一緒に考える」ことを大切にするようになりました。
問いを投げる。本人の言葉を聞く。違う視点から問い直す。必要なら厳しいことも伝える。
そして最後は、本人が自分で決める。
これはコンサルティングというより、メンタリングに近い仕事なのかもしれません。
経営者は、意外と孤独である
自分自身が経営者になり、多くの起業家や経営者と話す中で、もう一つ強く感じるようになったことがあります。
それは、経営者は、意外と相談する相手がいない。ということです。
社員には言えないことがあります。家族には心配をかけたくないことがあります。取引先にはもちろん話せません。
専門家に相談しても、それぞれ専門分野があります。
税務のことは税理士。労務は社会保険労務士。法律は弁護士。
しかし経営者が抱えている問題は、そんなにきれいに分かれていません。
売上の問題の中に、人の問題があり、人の問題の中に、組織の問題があります。組織の問題の中に、経営者自身の迷いがあり、そして最後には、「自分はどうしたいのか」という問いに行き着くことがあります。
この8年間で、私は次第に「経営課題を解決すること」だけではなく、経営者や起業家が、一人で抱え込まなくてよい環境をつくることを大切にするようになりました。
そこに生成AIが加わった
そして、この数年でもう一つ、大きな変化が起きました。
生成AIです。
ChatGPT、Claude Code、NotebookLMなどを使うようになり、仕事の進め方そのものが変わりました。
文章をつくるためだけではありません。
事業構想を整理する。顧客課題を考える。市場を分析する。ビジネスモデルを検討する。財務を分析する。
コンテンツをつくる。Webサイトをつくる。業務を仕組み化する。
これまで一人では膨大な時間が必要だったことを、AIと一緒に考えながら進められるようになりました。
私は2025年頃から、自分自身を「ソロプレナー with AI」と考えるようになりました。
一人で仕事をするという意味ではありません。人間がすべきことと、AIに任せることを分けることで、一人でも大きな仕事ができる。そして、人間はもっと「人に向き合うこと」に時間を使える。そんな可能性を感じています。
AIがどれだけ進化しても、最後に意思決定をするのは人間です。
だから私は、入口と出口は人間が持ち、その間の思考や分析をAIによって拡張する方法を模索しています。
これからの経営支援は、大きく変わっていくと思います。
8年間を振り返って、ようやく見えてきたもの
2018年に会社を立ち上げたとき、現在の姿を明確に描いていたわけではありません。
さまざまな仕事を通じて、多くの人と出会いました。
うまくいったこともあれば、思うようにいかなかったこともあります。
HBMSで学びました。SCCの運営をしながら、多くの起業家と出会いました。
経営者の相談にも乗ってきました。
そして生成AIとも出会いました。そうした一つひとつの経験が、8年かけて少しずつつながってきました。
最近、私は自分の仕事を、
Entrepreneur Life Cycle Managementという言葉で表現しています。
起業前だけではありません。起業するとき。起業した直後。事業が成長するとき。
人の問題に悩むとき。経営判断に迷うとき。そして、そのさらに先まで。
起業家や経営者のライフサイクル全体に関わっていく。
振り返ってみれば、私は知らないうちに、そういう仕事をするようになっていました。
そして、もう一つ大切にしている言葉があります。
Wherever you are, I’m here.
あなたがどこにいても、私はここにいる。
経営者や起業家を励ますだけではありません。
何かあったときに、「そういえば、あの人に相談してみよう」と思い出してもらえる存在でありたい。
一人で抱え込まなくてよい場所をつくりたい。35年間、私は会計人として企業を数字から見てきました。
そして独立して8年。自ら経営者となり、MBAで学び、起業家と向き合い、
地域の起業家育成に関わり、生成AIという新しい力も手に入れました。
振り返ってみると、この8年間は、
「経営を知っている人」から、「経営者と起業家の人生に伴走する人」へ変わっていった8年間
だったように思います。
2026年10月10日で、バリュー・クリエイション株式会社は設立8周年を迎えます。
まだ8年です。これから何が起きるのかはわかりません。
ただ一つ、はっきりしていることがあります。これからも私は、挑戦する人のそばにいたい。
起業前から、起業後のその先まで。
Entrepreneur Life Cycle Management
Wherever you are, I’m here.
それが、35年間の会計人としての経験と、独立後8年間の実践を経て、ようやく見えてきた私の仕事です。
※ 以下、ゲーム戦略風に獲得したスキルを表にまとめてみました。
この8年間で積み上げた経験値
| スキル領域 | 専門性(できること) |
|---|---|
| 経営戦略 | 経営理念、事業戦略、競争戦略、事業計画、KPI、新規事業を一つの流れとして設計する力 |
| 起業・新規事業開発 | 原体験、強み、顧客課題、提供価値、ビジネスモデル、収支、資金、ピッチまで、ゼロから事業を組み立てる力 |
| 財務・戦略会計 | 35年間の会計実務をベースに、数字を処理するだけでなく、経営判断に活用する力 |
| 事業性評価 | 市場、顧客、競合、収益性、実現可能性、経営者本人まで含めて事業を総合的に見る力 |
| メンタリング | 答えを与えるのではなく、問いを通じて本人の考えを引き出し、意思決定まで伴走する力 |
| 起業家教育 | 講義、メンタリング、実践、発表、フィードバックを組み合わせた育成プログラムを設計する力 |
| プログラム運営 | 受講生募集、講師調整、カリキュラム、広報、オンライン講義、メンタリング、成果発表までを総合的に運営する力 |
| 地域エコシステム形成 | 自治体、大学、起業家、専門家、修了生などをつなぎ、地域で挑戦が生まれる環境をつくる力 |
| プロジェクトマネジメント | 多数の関係者を巻き込みながら、期限、予算、役割、成果物を管理してプロジェクトを完遂する力 |
| マーケティング | ターゲット設定、提供価値、コピー、LP、Web、SNS、広告、コンテンツなどを組み合わせる力 |
| Web・デジタル活用 | WordPress、Thinkific、Slack、Zoom、Stripe、ConvertKitなどを組み合わせ、自ら事業基盤を構築する力 |
| コンテンツ制作 | ブログ、教材、講義資料、LP、動画、バナー、PDF、プレゼン資料などを企画し、形にする力 |
| ブランド構築 | 「何を売るか」だけではなく、「なぜ自分がこの仕事をするのか」を言葉やデザインに落とし込む力 |
| 生成AI活用 | ChatGPT、Claude Code、NotebookLMなどを、文章作成だけでなく戦略、分析、教材、業務設計に活用する力 |
| AI×経営支援 | 人間が入口と出口を担い、その間の分析・構造化・思考をAIで拡張する、新しい経営支援プロセスを設計する力 |
| 経営者への伴走 | 専門分野だけで問題を切り分けず、経営と経営者本人の両方を見ながら、意思決定に寄り添う力 |
起業して今日に至るまでに得たスキルや体験を棚卸しし、あらためて言語化してみました。
